3、降りしきる雪の彼方に


  『楽』が響く・・・・・・・ゆっくりと明かりがともる。 
  二人の男。人を騙る『語り師』と地上の『天楽師』   
  天上から降りそそぐ、楽のしらべ・・・・・・  

語り師 わたしたちは、氷砂糖をほしいくらい持たないでも、夢の中では、きれいに透き通った
風を食べ、ももいろの美しい朝の日光を飲むことができます……できます。またわたしは夢
  の中で、ひどいぼろぼろの着物が、一番すばらしいびろうどや、羅紗や宝石入りの着物にか
  わっているのをたびたび見ました……見ました。
  私たちはそういうきれいな食べ物や着物や、言葉を好きです……すきです。
  これからのわたしのお話は、わたしが起きてなお見る夢の中の、野原や林や鉄道線路やら
  で、みんなあの人から、もらってきたのです。
  ほんとうに、本当に、コンクリートで固められて澱んだ川のそばを通りかかったり、十一月の
  ビルの谷間に、ふるえながら立ったりしますと、もうどうしても目を閉じて、あの人の声を聞き
  たくてならないのです。ほんとうにもうあの人が、私の心の中で叫んでいるようで仕方のない
  その通りを、これからのお話に仕組んだまでです。ですからこれらの中には、私の考えたこと
  もあるでしょうし、また、あの人の言葉もあるでしょうが、私にはもう、その見分けがよくつきま
  せん。
  なんのことだかわけのわからないところもあるでしょうが、そんなところはわたしにも、たぶ
  んあの人にも、わけが分からないのです。
  けれどもわたしは、これからの言葉のひとつひとつ、小さな物語の幾切れかが、おしまい、
  私の夢の中でぼんやりと光っているあの人……宮澤賢治を捜す旅の、透き通った、本当の
  時刻表になることを、どんなに、願うか、わかりません……
                          ここで終わり。
1、『永訣の朝』

  雪が降り始めた。白い世界の『楽』が流れる。

語り師 けふのうちに
    とほくへいつてしまうわたくしのいもうとよ
    みぞれがふつておもてはへんにあかるいのだ
       (あめゆじゆとてちてけんじや)    曲始まり
    うすあかくいつそう陰惨な雲から       
    みぞれはびちよびちよふつてくる
       (あめゆじゆとてちてけんじや)
    青い蓴菜のもやうのついた
    これらふたつのかけた陶碗に
    おまえがたべるあめゆきをとらうとして
    わたくしはまがつたてつぱうだまのやうに
    このくらいみぞれのなかに飛びだした
       (あめゆじゆとてちてけんじや)
   蒼鉛いろの暗い雲から
    みぞれはびちよびちよ沈んでくる
    ああとし子
    死ぬといふいまごろになつて
    こんなにさっぱりした雪のひとわんを
    おまへはわたくしにたのんだのだ
    ありがとうわたくしのけなげないもうとよ
    わたくしもまつすぐにすすんでいくから
       (あめゆじゆとてちてけんじや)
    はげしいはげしいねつやあへぎのあひだから
    おまへはわたくしにたのんだのだ
     銀河や太陽 気圏などとよばれたせかいの
    そらからおちた雪のさいごのひとわんを・・・・・・
    ・・・・・・ふたきれのみかげせきざいに
    みぞれはさびしくたまつている
    わたくしはそのうえにあぶなくたち
    雪と水とのまつしろなニ層系をたもち
    すきとほるつめたい雫にみちた
    このつややかな松のえだから
    わたくしのやさしいいもうとの
    さいごのたべものをもらつていかう
    わたしたちがいつしよにそだつてきたあひだ
    みなれたちやわんのこの藍のもやうにも
    もうけふおまへはわかれてしまう
    (Ora Orade Shitori egumo)
    ほんたうにけふおまえはわかれてしまふ
    あああのとざされた病室の
    くらいびやうぶやかやのなかに
    やさしくあをじろく燃えてゐる
    わたくしのけなげないもうとよ
    この雪はどこをえらぼうにも
    あんまりどこもまつしろなのだ
    あんなおそろしいみだれたそらから  
    このうつくしい雪がきたのだ
      (うまれでくるたて
       こんどはこたにわりやのごとばかりで
       くるしまなあよにうまれてくる)
    おまへがたべるこのふたわんのゆきに
    わたくしはいまこころからいのる
    どうかこれが天上のアイスクリームになつて
語り師 おまえとみんなとに聖い資糧をもたらすやうに
    わたくしのすべてのさいはひをかけてねがふ

     『楽』は続く・・・・・・          
2、『とし子』

     『楽』が終わり、しばらくの静寂。  曲終わり

語り師 わたくしのそばに、もうひとりのわたくしが生きておりました。
 それは、おとなしく、ひかえめで、それでいて芯の強い、わたくしの本当の理解者、かけがえ
のないわたくしの妹、とし子・・・・・・わたくしととし子は、この世に生まれ出た日付が違うだけで、
双子のような存在でした。また、別の時間、別の世界、別の次元では、一人の人間であったよう
な気さえします。
 そしてあの日、わたくしはわたくしの半身をもぎ取られてしまいました。
やがてわたくし自身をも蝕むであろう、あの忌まわしい病によって・・・・・・
 これからのお話は、わたくしの心の中の旅の物語です。とし子の面影を探し、とし子の思い出
をたどり、とし子への言葉を探る、孤独な旅の・・・・・・物語です。

3、「手紙」

『天楽師』がまた『楽』を奏で始めた。曲始まり  
     双子の星、チュンセとポーセが、昔天上で奏していた様な美しき調べ・・・・・・
     
語り師 私はある人から云いつけられて、この手紙を印刷してあなた方にお渡しします。どなた
  か,ポーセがほんとうにどうなったか、知っている方はありませんか。チュンセがさっぱりごは
  んも食べないで毎日考えてばかりいるのです。
  ポーセはチュンセの小さな妹ですが、チュンセはいつもいぢ悪ばかりしました。ポーセがせ
  っかく植えて、水をかけた小さな桃の木になめくじをたけて置いたり、ポーセの靴に甲虫を飼
  って、二月もそれをかくして置いたりしました。ある日などはチュンセがくるみの木にのぼって
  青い実を落としていましたら、ポーセが小さな卵形のあたまをぬれたハンケチで包んで、「兄
  さん、くるみちょうだい。」なんて云いながら大へんよろこんで出てきましたのに、チュンセは、
  「そら、とってごらん。」とまるで怒ったような声で云ってわざと頭に実を投げつけるようにして泣
  かせて帰しました。
  ところがポーセは、十一月ころ、俄かに病気になったのです。おっかさんもひどく心配そうで
  した。チュンセが行って見ますと、ポーセの小さな唇はなんだか青くなって、目ばかり大きくあ
  いて、いっぱいに涙をためていました。チュンセは声が出ないのを無理にこらえて云いました。
  「おいら、何でも呉れてやるぜ。あの銅の歯車だって欲しきゃあやるよ。」けれどもポーセはだ
  まって頭をふりました。息ばかりすうす
 うきこえました。
 チュンセは困ってしばらくもぢもぢしていましたが思い切ってもう一ぺん云いました。「雨雪とっ
  てきてやろか。」「うん。」ポーセがやっと答えました。チュンセはまるで鉄砲丸のようにおもて
  に飛び出しました。おもてはうすくらくてみぞれがびちょびちょ降っていました。チュンセは松の
  木の枝から雨雪を両手にいっぱいとって来ました。それからポーセの枕もとに行って皿にそれ
  を置き、さじでポーセにたべさせました。ポーセはおいしそうに三さじばかり喰べましたら急に
  ぐたっとなって息をつかなくなりました。おっかさんがおどろいて泣いてポーセの名を呼びなが
  ら一生けんめいゆすぶりましたけれども、ポーセの汗でしめった髪の頭はただゆすぶられた
  通り動くだけでした。チュンセはげんこを眼にあてて、虎の子供のような声で泣きました。
  それから春になってチュンセは学校も六年でさがってしまいました。チュンセはもう働いてい
  るのです。春に、くるみの木がみんな青い房のようなものをさげているでしょう。その下にしゃ
  がんでチュンセはキャベジの床をつくっていました。そしたら土の中から一ぴきのうすい緑色
  の小さな蛙がよろよろと這って出て来ました。
 「かえるなんざ、潰れちまえ。」チュンセは大きな稜石でいきなりそれを叩きました。
  それからひるすぎ、枯草の中でチュンセがとろとろ休んでいましたら、いつかチュンセはぼ
  おっと黄いろな野原のようなところを歩いていくように思いました。すると向こうにポーセがしも
  やけのある小さな手で眼をこすりながら立っていてぼんやりチュンセに云いました。
 「兄さんなぜあたいの青いおべべ裂いたの。」チュンセはびっくりしてはね起きて一生けん命
  そこらをさがしたり考えたりしてみましたがなんにもわからないのです。どなたかポーセを知っ
  ているかたはないでしょうか。けれども私にこの手紙を云いつけた人が云っていました。「チュ
  ンセはポーセをたずねることはむだだ。なぜならどんなこどもでも、また、はたけではたらいて
  いるひとでも、汽車の中で苹果を食べているひとでも、また歌う鳥や歌わない鳥、青や黒やの
  あらゆる魚、あらゆるけものも、あらゆる虫も、みんな、みんな、むかしからのおたがいのきょ
  うだいなのだから、チュンセがもしポーセをほんとうにかわいそうにおもうなら大きな勇気を出
  してすべてのいきもののほんとうの幸福をさがさなければいけない。チュンセが
 もし勇気のあるほんとうの男の子ならなぜまっしぐらにそれに向かって進まないか。」それから
  このひとはまた云いました。「チュンセはいいこどもだ。さアおまえはチュンセやポーセやみん
  なのために、ポーセをたずねる手紙を出すがいい。」そこで私はいまこれをあなたに送るので
  す。
     
     『楽』は続く・・・・・・そしてまた、雪が降り始めた。曲終わり、余韻を残し
     しんしんと降り続く雪。            次の曲へ

4、『松の針』

語り師   さつきのみぞれをとつてきた
    あのきれいな松の枝だよ
    おお おまへはまるでとびつくやうに
    そのみどりの葉にあつい頬をあてる
    そんな植物性の青い針のなかに
    はげしく頬を刺させることは
    むさぼるやうにさえすることは  
    どんなにわたくしたちをおどろかすことか
    そんなにまでもおまえは林へ行きたかつたのだ
    おまへがあんなにねつに燃され
    あせやいたみでもだえてゐるとき
    わたくしは日のてるとこでたのしくはたらいたり
    ほかのひとのことをかんがへながら森をあるいてゐた
       《ああいい さつぱりした
  まるで林のながさ来たよだ》
    鳥のやうに栗鼠のやうに
    おまへは林をしたってゐた
    どんなにわたくしがうらやましかつたらう
    ああけふのうちにとほくへさらうとするいもうとよ
    ほんたうにおまへはひとりでいかうとするか
  わたくしにいつしよに行けとたのんでくれ
    泣いてわたくしにさう言つてくれ
      おまへの頬の けれども
      なんといふけふのうつくしさよ
      わたくしは緑のかやのうへにも
      この新鮮な松のえだをおかう
      いまに雫もおちるだらうし
      そらさはやかな
      terpentineの匂もするだらう

     『楽』は続く・・・・・・     曲終わり

5、『青森挽歌』
     
     白くおおわれた野原の中を、列車が行く。
     透明なエーテルの中に浮ぶ星々のような無数の冷たい結晶の中を、ただひたすらに、
  黒い列車が行く・・・・・・
    曲の余韻にのってせりふ

語り師 こんなやみよののはらのなかをゆくときは
    客車のまどはみんな水族館の窓になる

語り師 何べん大声で呼びかけても、心の中で叫んでも、妹は・・・・・・とし子はもう、
 私の前に現れる事はない。「賢さん」とよく通る澄んだ声で、私に呼びかけることはない。わか
  っているのに、はっきりと理解しているはずなのに、幻でもいい、影でもいい、とし子の声を聞
  きたくて、とし子の姿にもういちど触れたくて、私は汽車に乗り、北へと向かいました。せめ
  て、とし子の意識が、透明な言葉となって、私に語りかけてくれることを祈って。

    列車の曇った窓の向こう、静々と降り積もる雪、かすかに聞こえる『楽』
                            
語り師     (乾いたでんしんばしらの列が
  せわしく遷っているらしい
  汽車は銀河系の玲瓏レンズ
      巨きな水素のりんごのなかをかけてゐる)
     りんごのなかをはしってゐる
     けれどもここはいったいどこの停車場だ
     枕木をやいてこさえた柵が立ち
        (八月の よるのしじまの 寒天凝膠)
     支手のあるいちれつの柱は
     なつかしい陰影だけでできている
     黄いろなラムプがふたつ点き
     せいたかくあをじろい駅長の
     真鍮棒もみえなければ
     じつは駅長のかげもないのだ

     あいつはこんなさびしい停車場を
     たったひとりで通っていったろうか
     どこへ行くともわからないその方向を
     どの種類の世界へはいるともしれないそのみちを  
     たったひとりでさびしくあるいて行ったろうか

     かんがえださなければならないことは
     どうしてもかんがえださなければならない
     とし子はみんなが死ぬとなづける
     そのやりかたを通って行き
     それからさきどこへ行ったかわからない
     それはおれたちの空間の方向ではかられない
     感ぜられない方向を感じようとするときは
     たれだってみんなぐるぐるする
      《耳ごうど鳴ってさっぱり聞けなぐなったんちゃい》
     そう甘えるように言ってから
    たしかにあいつはじぶんのまわりの
     眼にははっきりみえている
     なつかしいひとたちの声をきかなかった
     にわかに呼吸がとまり脈がうたなくなり
     それからわたくしがはしって行ったとき
     あのきれいな眼が
     何かを索めるように空しくうごいていた
     それはもうわたくしたちの空間を二度と見なかった
     それからあとであいつはなにを感じたろう
     それはまだおれたちの世界の幻視をみ
     おれたちのせかいの幻聴をきいたろう
     わたくしがその耳もとで
     遠いところから声をとってきて
     空や愛やりんごや風 すべての勢力のたのしい根源
     万象同帰のそのいみじい生物の名を
     ちからいっぱいちからいっぱい叫んだとき
     あいつはニへんうなずくように息をした
     白い尖ったあごや頬がゆすれて
     ちいさいときよくおどけたときにしたような
     あんな偶然な顔つきにみえた
     けれどもたしかにうなづいた
     
     たしかにあのときはうなづいたのだ
     そしてあんなにつぎのあさまで
     胸がほとってゐたくらゐだから
     わたくしたちが死んだといつて泣いたあと
     とし子はまだまだこの世かいのからだを感じ
     ねつやいたみをはなれたほのかなねむりのなかで
     ここでみるようなゆめをみてゐたかもしれない
     そしてわたくしはそれらのしづかな夢幻が
     つぎのせかいへつゞくため
     明るいいゝ匂いのするものだつたことを
  どんなにねがふかわからない

  《黄いろな花こ おらもとるべかな》
     たしかにとし子はあのあけがたは
     まだこの世かいのゆめのなかにいて
     落葉の風につみかさねられた
     野はらをひとりあるきながら
     ほかのひとのようにつぶやいていたのだ
    そしてそのままさびしい林のなかの
     いっぴきの鳥になっただろうか
     l'estudiantinaを風にききながら
     水のながれる暗いはやしのなかを
     かなしくうたって飛んで行ったろうか
     
          《みんなむかしからのきやうだいなのだから
  けつしてひとりをいのつてはいけない》
     ああ わたくしはけつしてさうしませんでした
     あいつがなくなつてからあとのよるひる
     わたくしはただの一どたりと
     あいつだけがいいとこに行けばいいと
   さういのりはしなかつたとおもいます    

     明かりが『天楽師』のみを照らし、『楽』が流れつづける。
     楽が終わり、暫くの間・・・・・・ 曲終わり
     明かりがまた、語り師を照らし。

語り師 旅の間に、そして、旅を終えてからも、別の世界から届けられる様々な言葉 達。それ
  は、わたくしの言葉であり、またとし子から送られたものでもありました。わたくしは、祈りを込
  めて、それらのことばを書き綴りました。「妹よ、とし子よ、どうか、わたくしの言葉が力を得
  て、お前が、志半ばでこの世を去ったすべての人々が、新しく、天に生まれ変われるように」

6、『よだかの星』
     
     『楽』の音、時に激しく、時にやさしく・・・・・・ 曲始まり

語り師 (あゝ、かぶとむしや、たくさんの羽虫が、毎晩僕に殺される。そしてそのたゞ一つの僕
  がこんどは鷹に殺される。それがこんなにつらいのだ。あゝ、つらい、つらい。僕はもう虫を食
  べないで飢ゑて死なう。いやその前にもう鷹が僕を殺すだろう。いや、その前に、僕は遠くの
  遠くの空の向こふに行ってしまはう。)
  夜だかは、どこまでも、どこまでも、まっすぐに空へのぼって行きました。もう山焼けの火は
  たばこの吸殻のくらゐにしか見えません。よだかはのぼってのぼって行きました。
  寒さにいきはむねに白く凍りました。空気がうすくなった為に、はねをそれはそれ
  はせはしくうごかさなければなりませんでした。
 それだのに、ほしの大きさは、さっきと少しも変りません。つくいきはふいごのやうです。寒さ
  や霜がまるで剣のやうによだかを刺しました。よだかははねがすっかりしびれてしまひました。
  そしてなみだぐんだ目をあげてもう一ぺんそらを見まし
 た。さうです。これがよだかの最後でした。もうよだかは落ちてゐるのか、のぼってゐるのか
  さかさになってゐるのか、上を向いてゐるのかも、わかりませんでした。たゞこゝろもちはやす
  らかに、その血のついた大きなくちばしは、横にまがっては居ましたが、たしかに少しわらっ
  て居りました。 
 それからしばらくたってよだかははっきりまなこをひらきました。そして自分のからだがいま燐
  の火のやうな青い美しい光になって、しづかに燃えてゐるのを見ました。
  すぐとなりは、カシオピア座でした。天の川の青じろいひかりが、すぐうしろになってゐました。
 そしてよだかの星は燃えつゞけました。いつまでもいつまでも燃えつゞけました。
  今でもまだ燃えてゐます。

     『楽』は静かに流れつづける。その中で・・・・・・ 曲のみが残り、しばらくしておわる。

語り師 これで、わたくしのお話はおしまいです。わたくしもまもなく、この世界を離れ、とし子の
  待つ天上へと旅立つことになるでしょう。
 できなかったこと、やりのこしたことはたくさんあります。けれども再び、とし子と共に生まれ変
  わることができたなら・・・・・・もういちど、やり直すことができたならば・・・・・・

終章『雨ニモマケズ』

語り師 ・・・ナリタイ・・・ナリタイ・・・ナリタイ・・・ナリタイ・・・ 「新世界」始まり
     雨ニモ負ケズ
     風ニモ負ケズ
     雪ニモ夏ノ暑サニモ負ケヌ
     丈夫ナカラダヲモチ
     欲ハナク
     決シテ瞋ラズ
     イツモシズカニワラッテイル
     一日ニ玄米四合ト
     味噌ト少シノ野菜ヲタベ
     アラユルコトヲ
     ジブンヲカンジヨウニ入レズニ
     ヨクミキキシワカリ
     ソシテワスレズ
     野原ノ松ノ林ノ陰ノ
     小サナ過や゛キノ小屋ニヰテ
     東ニ病気ノコドモアレバ
語り師  行ッテ看病シテヤリ
     西ニツカレタ母レバ
     行ッテソノ稲ノ束ヲ負イ
     南ニ死ニソウナ人アレバ
     行ッテコワガラナクテモイイトイヒ
     北ニケンカヤソショウガアレバ
     ツマラナイカラヤメロトイイ
     ヒデリノトキハナミダヲナガシ
     サムサノナツハオロオロアルキ
     ミンナニデクノボウトヨバレ
     ホメラレモセズ
     クニモサレズ
     サウイフモノニ
     ワタシハナリタイ

     万感の思いを込めて、語り師は語り終え、『天楽』のみが鳴り響く・・・・・・
     そして、一つの世界が終わり、新しい世界が・・・・・・ 最後は曲をじっくり聞かせてあげ
  てください。お客様とそして私に。

(終)

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